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「天は赤い河のほとり」パロディ小説10話。
10話達成記念特別企画

「ヒッタイト版 黄泉がえり物語」



ユーリ、テシュプランドへ
ユーリさまの尽力で建設された世界初のテーマパーク「テシュプランド」。オープンしてしばらくすると、オープン時の騒ぎも落ち着き、キャストも慣れてきてテーマパークとして落ち着いた運営をしている。
(「テシュプランド」=ヒッタイトのハットウサ郊外に誕生した世界初のテーマパーク 。(しゅんしゅんの創作による。詳しくはこちら(用語集)へ)
 
 

今日は、新アトラクションの試運転があるというので、ユーリとハディはテシュプランドの「未来の国」へやってきた。
建設用の囲いの前で二人を迎えたのはイル・バーニと元老院文官シュンシューン・イナリ。

「シュンシューン、今度のアトラクションは何をモチーフにしたの??」
「はい、『ミクロ・アドベンチャー』の雰囲気をベースに・・」
「ミクロアドベンチャー??」
「つまり、『キャプテンEO』の・・・・」(しまった、ユーリさまはミクロを知らなかったか・・・)
 
 
 

新アトラクションの概要
ミクロアドベンチャーをベースにしたと言っても、紀元前14世紀の世界ではメガネもなければ映像も再生できない。
そこで、神官たちと協力して、様々な薬草を調合したものを会場内に焚いて、エジプト旅行をイメージした幻覚を見させるような施設にした。

テストの際にはエジプトから連れてきた奴隷の中から希望者を募り、実際に薬草の調合を変えながら、エジプトの幻覚が見えるようにブレンドした。
「と、言うことは人体実験したの、シュンシューン」
「薬草は安全なもののみを使用していますし、奴隷たちも労働より座って幻覚を見た方がいいということで、人気のある仕事でした。もちろん、死者や中毒者は一人もいません」
「それならいいけど」
(エジプトの奴隷を使って人体実験なんて、シュンシューンもこの世界に染まってきたのかな??) ユーリは太陽の昇る国から来たこの男の変わり様に驚いた。
 
 
 
 
 

ショーのはじまり
会場内は、数百の椅子が並べられ、中央にはかがり火が焚かれている。
一同が着席すると、キャストがかがり火に何種類かの薬草をくべた。
ユーリは眠りにおちいった・・・・・
 
 
 

ユーリ、うとうとしてしまう
「ユーリさま、起きて下さい」
ユーリはハディに起こされた
「いかがでしたか」「それが、ぐっすり眠ってしまったようなので・・・」
「エジプトの幻覚はご覧になれませんでしたか……… やはり日本生まれの方ですと、ちょっと薬草が効きすぎたようですね」
シュンシューンが言った。「薬草の配合を研究して、今一度ご覧いただける機会をつくりたいと思います」
「ありがとう、シュンシューン」「ユーリさま。せっかくだから、パーク内を見ていきましょうか」
ユーリとハディはパーク内へ向かった。
 
 
 

売り子の正体は・・・・・
イシュタル城の前に物売りの屋台があった。ナツメのはちみつ漬けと、はちみつとレモン汁をミックスした飲み物を売っている。
看板には下手くそな日本語で『はちみつレモン』と書いてある。きっとシュンシューンが書いたに違いない・・・。
そして、ユーリは我が目を疑った。商品ではなく、売り子が………。
「ウルスラ!!」数年前に無実の罪で処刑されたはずの女官、ウルスラが食べ物を売っている。
「いいえ、私はウルスラという名では・・・・イシュタルさま!!ご無沙汰しています。」
「あなた、処刑されたのではないの??」
「いいえ」
 
 
 
 

ウルスラが生き残ったわけ
「そう、どうして生き残れたの??」
先帝、アルヌワンダ一世の命を奪った者を処刑すれば国は収まる。コミック10巻当時、だれもがそれを感じていた。
ウルスラが犯人と名乗り出たとき、イル・バーニは見殺しを命じたが、一方で太陽の昇る国から来た神官(の位をもつ)、シュンシューン・イナリに相談していた。
シュンシューンは、大量のロウを集めると、行き倒れになった人の遺骨を中に埋め込み、ウルスラそっくりの蝋人形を作った。
人形の中には「ございません」と言うための人工の発声器官も木と皮で作って取り付けた。
処刑の直前、カッシュが愛情を確認した後、護衛兵に化けたイル・バーニの私兵がすり替わる方法を教唆した。(教唆する時間が欲しくて、護衛兵はカッシュを追い出したというわけ)
見事、蝋人形は処刑された。火葬の後、骨も拾われた。
一方、ウルスラ本人は、イル・バーニの私兵に付き添われて、遠くアッシリアのイル・バーニの親戚の許に逃れた。
そして、政情が落ち着いたので、とりあえず戻ってきたというわけだ

このことを知っているのは、イル・バーニ(と側近)とシュンシューンだけであったのだ。

「カッシュに会いたいけど、どうしてるのかなぁ」
「カッシュはあなたのことが忘れられなくて、未だに結婚もしていないのよ。それに、今頃はシュンシューンさまの執事がカッシュの所に事情を伝えに行っているので、今晩会えるよ」ハディは言った。
もっとも、死んだはずの人がカッシュに会うのも回りから見て不自然だから、名前を変えてカッシュの新恋人という設定の方がいい、とはウルスラがシュンシューンから受けたアドバイスとのこと。
 
 
 

カストーディアル
テシュプランドは常に「カストーディアル」と呼ばれる掃除係によって清潔に保たれている。
ユーリは、その中に詠美を見つけた。「詠美!!」いや、ちょっと違うぞ・・・もしかして・・・
「ティト!!。あなたも生きていたのね」
「ティト!!」ハディとユーリは駆け寄った

「あなた、死んだんじゃなかったの」
「いえいえ」
ナキアの陰謀によって、殺害されることになったティト。王宮の牢に閉じこめられたが、そこに現れたのはイル・バーニの私兵とシュンシューン・イナリだった。
街で病死した身よりのない男の子の遺体を持ってきたシュンシューンたち。遺体の首に縄を掛け、ティトの腕輪を付けかえると牢の天井から吊した。
同時に、ティトを牢から出し、シュンシューンの自宅へかくまった。
ズワはティトが自死したと勘違いし、その遺体から腕輪を奪い、皮を剥いだのである
本当は、騒ぎが収まったらユーリの元へ戻すつもりだったのだが、ユーリがティトを天に送る儀式などを始め、今さら戻せなくなってしまい、やむなくミタンニにいるキックリの親戚に預けた。
そして、ウルスラ同様、先日戻ってきてここで働いているのだ。

「ねえ、ハディ。王宮で・・・」
「それはまずいでしょう。死んだはずの人を雇い入れるのは。幸いにも、彼は義父母一家とハットゥサに移住して、キャストの住宅に住んでいるので、いつでも会えますよ」
 
 
 

謎の女の子
「お兄ちゃ〜ん」ティトの傍らに、愛息デイルより少し年上の、幼児ぐらいの女の子が現れた。
「キキ、仕事場に来たらダメじゃないか」「え〜ん」
「ティトくん、今は手が空いているから、妹さんの相手をしながら自宅に送っていってあげなさい。ハイ、これ。はちみつレモンでも買ってあげなさい」カストーディアルの年輩の女性は、ティトに小銭を握らせた。「班長さん、ありがとう」
「ティト。キキっていうこの子。妹なの??」「うん、この子も おじさん(キックリの親戚)にボクと同じように預けられたんだ。とっても仲良しなんだ。」
ティトにくるくるとまとわりついている この子をよく見ると、ユーリと同じ象牙色の肌、カイルと同じ栗色の髪、髪質はユーリ同様、ウエーブがかかっている。顔は・・・・目元はカイルに、口元はユーリに・・・・・
「こ、こ、こ、この子って・・・・」ユーリは続く言葉が出なかった。
 
 
 

ダンサー
ユーリは呆然としていた。亡くなったはずの人が生きていた。
ハディは声をかけた「気分転換に『ショーベース(マイナス)1000』のステージショーでも見ませんか??」
ショーのステージでは薄ものをまとったベドウィンの女性や、かっこいい男ダンサーが踊っている。
 

かっこいい男ダンサー??
あれって、まさかザナンザ皇子??。
それに、楽器を演奏しているのはマリ殿下
どうして?どうして?どうして?

踊りの小道具を持ってステージに登場した黒髪の黒子は、間違いなくルサファ
ルサファは私を想いながら神殿の沐浴場で事切れたはず・・・・・
どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

ユーリはめまいがしてきた。

どうしたら彼らに会えるのかしら。そうだ、タワナアンナの特権を使おう
ユーリはステージのキャストに耳打ちして、ステージ脇に消えた。
ショーが終わる寸前、いつの間にか着飾ったユーリはステージに立った。
子供を生んで、若干体型は崩れているが、それでも、少年のようなみずみずしさは失われておらず、ザナンザと一緒に踊った。
観客はタワナアンナの飛び入りにびっくり仰天。

カーテンコールの後、ユーリは、ザナンザたちと一緒にステージから楽屋に入ることに成功した。
 
 
 
 

楽屋で
「あなた、エジプトに行く途中で死んだのじゃないの??。それに、マリ殿下も。どうしてルサファまでいるの??」
着替える間もなく、ユーリは3人に尋ねた。
「ワハハハハハ」「心配かけてごめんごめん」「………」

ザナンザはあのとき、矢で射られたが何とか虫の息はあった。
ユーリが命からがら去った後、砂漠に散った財宝拾いに来たベドウィンの人たちに助けられた。

彼はその容姿から部族長の娘に見初められ、結婚。
今日はベドウィンの部族長自慢の婿が自らダンサーとして出演するという触れ込みでここに来たのだ。
「なぜ手紙をくれなかったの」「私が死んだことにしておけば、ナキア皇太后の退位の手助けになるのでは、と考えたのだがね」
 

マリ殿下はどうして死ななかったの??」
「私?。私は剣が苦手で、あの戦で命を落とすかも知れない、とシュンシューンからお告げを受け、奴の薦めでクローンを作った。死んだのはクローンだったのだが、今さらノコノコと出てくるわけにいかなくってね」
「それでマリの奴、俺の部族に転がり込んできたんだ」と、ザナンザ。
 
 

謎の女の子、キキ
ザナンザ、マリとルサファが話を続けている。
「そうそう、ユーリ。ティトくんの所にキキって言う女の子がいただろ」
「ええ」
「エジプトの医学は凄くてねぇ」「えっ?」「流産した母体から流れ出たものから遺伝子を取りだし、子供を再生することもできるんだ。」
「ラムセス将軍は、あの時、金に糸目をつけず医師たちにそれを命じ、奴隷女の腹を借りて、見事に女の子が誕生したんだ」
(医師が女性の奴隷の希望者の中から一番健康そうな人を選び、腹を借りた。その後、その女性は功績を認められ、ラムセスの実家の上級女官に取り立てられたとのこと)
「奴は、その娘を自分の妻か側室にするつもりだったのだが・・・・・」
「ユーリの御子が生存している事が明らかになると、ナキア前皇太后やウルヒがどんな行動に出るか分からなかったので、イル・バーニの名代、シュンシューン・イナリがラムセス将軍を説得して、ティト同様に、キックリの親戚に預けたんだ」
「その子、私が引き取っ・・・」と、ユーリ
「ユーリ、気持ちは分かるが、キキは新しい両親やお兄ちゃんと貧しいながらも楽しい家庭生活を送っているんだ。その一家をタワナアンナの権力を使って引き離すというのはどうかなぁ。時々会うのは良いかも知れないけど」
ユーリの頭の中はぐるぐる回っている。
 
 
 

ルサファの場合
「私の場合はちょっと違うのです、天と地を統べる皇帝、カイル・ムルシリ皇帝陛下の唯一のお后さまでいらっゃいます、ユーリ・イシュタル皇后陛下さま」
ルサファ、どうしたの??。妙によそよそしいけど」
「実は、ホンモノのルサファは亡くなっているんだ」とマリ
「えっ」
『ユーリさまのために死にたい』『末永く皇室に仕えたい』という矛盾する希望を叶えるため、ルサファもシュンシューンに頼んでクローンを作ってもらったのだが・・・・」とザナンザ
「沐浴の時に出動したのはホンモノのルサファだった。ユーリさまを慕っていた彼は、クローンには任せられずに自分が飛び出したのだろう。私の場合と異なり、ホンモノが出動したおかげで……」とマリは涙ぐんだ。
「つまり、私はクローン。『ルサファ第2号』でございます。」
「これからどうするの??」ハディが尋ねた
「はい、エジプトに行って、ハトホル・ネフェルトさまに結婚を申し込み、末永く皇帝陛下にお仕えしたいと存じます」
「ルサファ、エジプトの近くまで私たちの部族と行動を共にするがよい」「ありがとうございます」
 
 
 

ユーリ、きれる
「うわ─────────ん。みんなひどいよ。私があれだけ悲しんで、苦しんで、辛い思いをしたのに。みんな生きていたなんて」
「そうだ、それを隠していたシュンシューンが悪いのだわ。最っ低ぃ。手討ちよ。近衛隊集合!!

「ユーリ、ちょっと待ってくれ」ザナンザは言った「私たちが生きている、ということを立后前のユーリが知った場合、ユーリのナキア皇太后に対する憎しみは確実に減るだろう。ナキア皇太后を失脚させた最も大きな力は、ユーリのもつ憎しみ。それを知っていたんだ。イル・バーニとシュンシューンは」

マリも言った「確かにユーリやカイル兄上と一緒に過ごせない事はつらいけど、私たちも、せっかく助けてもらった命。それなりに使っているよ。ベドウィンの暮らしも楽しいし、私たちはそれぞれ自分の妻を愛している。」
「ウルスラやティト、キキだって、身分は低くなったけど、平和な治世のおかげで何不自由なく生活することが出来る。ハトホル・ネフェルト姫だって、クローンとはいえ、ルサファと一緒になれるのだ」
「ユーリ、奴を許してやってくれないか」
「うわ─────────────────ん」ユーリはザナンザの胸で思いっきり泣いた。
泣きながらだんだん気が遠くなってきた
 
 
 

「ユーリさま!!!」
「ユーリさま」「ユーリさま」「タワナアンナさま」
「眠りながら大泣きなさって、大丈夫ですか」まぶたを開けると、見慣れた側近たちや医師が心配そうにユーリを見ている。
いたいた、シュンシューンが。ユーリは立ち上がるといきなりシュンシューンに駈け寄り、平手打ちをした。
シュンシューンはキツネにつままれれた感じである。
 
 
 

新アトラクションの謎
「そうだったんですか。いくら私でもクローンまでは作れませんよ」「シュンシューン、ごめんなさいね」
テシュプランドの貴族用ダイニング「クラブ333」でシュンシューンはユーリから事の顛末を聞いた。

「でも、どうしてエジプトの奴隷たちはエジプト旅行の幻覚を見て、ユーリさまは亡くなった方の幻覚を見たのでしょうか」ハディが首をかしげた。

「もしかしたら」シュンシューンはひらめいた「この薬草は、エジプト旅行の幻覚ではなく、本人が一番欲しがっているもの、行きたいところ、会いたい人の幻覚を見るのではないでしょうか」

「そうなると、エジプトの奴隷たちは」イル・バーニが言った「全員、故郷に帰りたがっているから、揃ってエジプトの幻覚を見たわけか」

「はい、そうなることに」

イルは言った「よし、奴隷たちに帰省の機会を与えるよう、陛下に奏上しよう」
「ええ、陛下も反対することはないでしょう」
 
 

「ところでシュンシューン」テシュプランドからの帰り道、イル・バーニが聞いてきた。「そなたはどんな幻覚をみたんだ??」

「えっ、あの、その・・・・」
言えるわけないじゃん。東京ディズニーランドに行った幻覚だったのだが、一緒に行った相手が親しい女官たちだったのだ。これが妻にばれたら大変なことになる・・・・・・・・。
 
 
 

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初めて「夢オチ」を書いてみました。
「キキ」は「魔女の宅急便」に出てくる「ウルスラの友人」から名前をもらいました。
(「魔女の宅急便」ではキキが主人公でウルスラが脇役なんだけどね)
 

アトラクション実験の模様をエジプト風のイラストで描いてみました。
顔と足は横向き、胴体は正面向き、目は大きく・・・などと決まっているそうです。
(ふきだしとかがり火はエジプトの書式に依らずに描いてます。)
左上のヒエログリフ(エジプト文字)は「シュンシュン(SH_U_N_SH_U_N)」と読みます。


(C) 2004 SHUN-SHUUN INARI