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「天は赤い河のほとり」パロディ小説(2)

「ユーリの里帰り」



文官登場
「ユーリさまぁ」、と息せき切らして王宮にやって来たのは、元老院文官、シュンシューン・イナリ
「シュンシューン、どうしたの」
「ユーリさま、我がヒッタイトはすばらしいものを手に入れました」「すばらしいものって??」
「なんと、タイムマシンにございます」
「えっ!??」

ユーリの真ん丸の目はさらに丸くなったが、皇帝カイルを始め、他の者たちはきょとんとしている。

「これは失礼。皆さん、説明をいたしますので、私の執務室へお越し下さい」
 
 
 

未来人を助けた話
執務室へ向かう途中、シュンシューンは入手のいきさつを簡単に話した。
馬で遠乗りをしていると、見慣れない服装をした人が兵士に囲まれているのを見つけた。
彼は25世紀からやって来た未来人だった。21世紀初頭の名作コミック「天は赤い河のほとり」に感激した彼は無謀にもタイムマシンをすっ飛ばすと紀元前14世紀のヒッタイトにやってきた。ところが、危機管理の甘さから兵士に誰何されてしまい、投獄される寸前にシュンシューンが助けたのだった。
彼はお礼に、とタイムマシンの予備機(救命ボート)をシュンシューンにくれたのだ。
 

シュンシューンの執務室
シュンシューンの執務室。机の上には小さな昆虫くらいの物体がひとつ。
「こちらがタイムマシーンにございます」
「ねえ、シュンシューン」ユーリが尋ねた。「こんな小さなものに人が乗れるの??」
「これは、予備機のため特に小さく作られていますが・・・」

タイムマシーン予備機(救命ボート)の性能を簡単に書くとこうなる。

・予備機は25世紀に戻ることが目的なので、性能が簡素化されている
・基本的に虫の羽ばたきのような感じで空中を飛行するが、地上を進むこともできる。
・タイムマシーン本機に積み込むために小さく作られており、乗り込む際は特殊光線(縮小光線)を体に当てて乗り込む
・25世紀と出発した時代以外に行くことはできても、そこでは乗員は小さい状態から大きく戻れない。降りることが出来ない。
・出発した時代の前後100年には行けない。

「そうかぁ、降りることが出来ないんだぁ」
「御意」

「シュンシューン!」「はい、イル・バーニさま」
「ユーリさまは未来からお越しでよく分かっていると思うが、皇帝陛下や私たちにも説明してくれないか。」
「はい、かしこまりました。一通り説明させていただきます」
 
 
 

旅立ち
「ねえ、カイル」「ああ、分かっているよ。行っておいで。シュンシューン、ユーリを頼む」
「陛下、タイムマシーンには10人乗れます。皆さんもよろしければ」

がやがやと相談し、乗り込むことになったのはユーリ、カイル、キックリと三姉妹、カッシュ、シュバス、そしてシュンシューン

万が一のことがあってはならないので、危機管理対策としてイル・バーニ(文官)、ミッタンナムワ(武官)とデイル(皇太子)は居残りとなった。
 
 
 

21世紀へ
シュンシューンは操作盤に座ると、まず、21世紀へ向かう操作をした。
着いたところはヒッタイトの座標から南東に少し離れた、とある海峡の奥。

「カッシュさま。あれが未来の戦車にございます」
「でかいなぁ。馬が付いていないのに勝手に動くし、わっ!火を噴いたぞ」
「あの兵士たちが持っている筒のようなものは何だ。こっちも火を噴いたぞ。シュンシューン」
「シュバスさま、銃と申しまして、未来の弓矢のようなものです」

ユーリとシュンシューンの以外の者は空を飛ぶのは初体験。空からの眺めを楽しんでいた彼らだったが……

「それにしても、私たちもかつては戦争をしていたから兵士の死体は数多く見ているが、この兵士たちの遺体はむごすぎる。真っ黒に焦げたものや、手足がバラバラに吹き飛んだもの、何か大きなモノに踏みつぶされた遺体も……。」カッシュは声もなく窓の外を凝視している。
「ここでも、戦勝国の兵士が敗戦国の民を虐げているのね・・・」リュイは青ざめた。
「わっ、あそこでは女性の兵士が地元の男性を辱めているぞ。こんなひどいことは我がヒッタイトでも見たことがない。ユーリの世界ではこれが当たり前なのか??」と、カイル。
ユーリばぶるぶると震え「こ、こんな・・・ひどすぎる。シュンシューン、早く日本へやってよ。」
こうして、タイムマシンはイラクの地から日本へと向かった。
 
 
 

いよいよお待ちかねの・・・
日本へ着いたタイムマシンは、まず、海沿いの町へ向かった。大きなお城が空から見える。
「カイル、これがディズニーランドなの。」
「テシュプランドと違って、自分で動く乗り物が多いな」
「ユーリさま、あの者たちは皆貧しいのですか。」
「どうして??、みんな貧しくなんかないよ。シャラ」
「私たちのような黄金仕上げの腕輪や首飾りをつけた者が全くいないので。宝石をつけている者も少ないし」
「・・・・・・」

「おい、キックリ。ユーリさまと同じ象牙色の肌をした女の子がいっぱいいるぞ」
「まったく、降りて触れないのが残念だな、カッシュ」
「何人か側室にしたいものだ。」
パチン!!三姉妹の平手がキックリとカッシュを襲った。

ユーリは、窓の外を見て呆然となっていた。ディズニーランドの隣にあるテーマパークなんて知らないわ。
ユーリが日本から姿を消したのは1995年。2001年にオープンした東京ディズニーシーは影も形もなかったのだ。
 
 
 

21世紀の鈴木家で
いよいよ、ユーリの家へタイムマシンは向かった。
ユーリは、シュンシューンと操縦を代わると、なつかしい自分の家へ。
家の回りはそのまま。外壁だけは塗り替えたようだ。
床下の通気口から誰もいない家の中にはいると、自分の部屋へ。何となく片づいているが、そのままになっているものも多い。1階のリビングルームに降りると、高校合格直後に家族で撮った写真がそのまま飾ってある。
「この似顔絵、ユーリがここに来たときの頃の顔だな。まだ子供みたいだ。」「もおっ、カイルったらぁ」
「ねえねえ、この子ティトそっくりだわ、シャラ」「ホントだ、ハディ」
この家の時は止まってしまったのだろうか。
(仏壇に私の位牌がまだないということは、私は行方不明のままということかな)

玄関で物音がした。「聡、上がってって」「詠美、みんな留守なんだろ。いいのか」
詠美!顔も体つきもすっかり大人になって。それに氷室も。懐かしい。
あれ、どうして二人が一緒にいるの???。

氷室と詠美は二人で階段を上がっていって、詠美の部屋へ。
「もお、転んだ所に水たまりがあるんだもの。服が泥だらけ。着替えるからちょっとだけ待っててね」
詠美はピンク色のカーディガンを肩から外し、お揃いのキャミソールの裾に手をかけた。
きゃあ、詠美、どうして氷室の見ている前で服を脱ぐの??。
水たまりかぁ。・・詠美、ぼくは未だに水たまりを見ると夕梨のことを思い出すんだ。ぼくの目の前で消えるなんて。ううっ」
「聡、泣かないで。」「キミだって泣いているぞ」「聡!!」
詠美、何で肌着のまま氷室と抱き合っているの。私はここにいるのよ
わあ、聡っ。どこ触っているの!!??
 
 


 
 

ユーリの暴走
ユーリはいきなりタイムマシンのアクセルペダルを踏むと、シュンシューンが制止するのも構わずに、二人の前に飛び出した。
「二人ともやめて!!、私はここにいるよ」
「ユーリさま、おやめ下さい。危険です!!」

その時、聡はスリッパを手に持ち替えると、ユーリのタイムマシンめがけて思いっきり振り下ろした
間一髪でつぶされる所だった。

「ユーリさま。間一髪でしたね」「どうして私たち襲われそうになったの」

「聡、キスの途中でスリッパなんて振り下ろしたりして。どうしたの」
「今、ゴキブリがぼくたちめがけて突進してきたんだ」
 
 
 

王宮にて
「なかなかスリリングでしたね」
「ユーリさまの操縦、なかなかでしたわ」
「楽しいものを見させていただき、ありがとう」
「今日見たことを参考に、武器を改良いたします」
「キックリ、ユーリさまの妹君の着替えばかり見てて。」「そ、そんなわけでは」
 〜「リュイ、今日はたっぷりとキックリをかわいがって上げてね」「はーい。姉さん」

「詠美ぃ、氷室ぉ、どうして?どうして?(ぐすん)」
「ユーリ、昔の男の変わり様が辛かったのか。今宵は私が忘れさせて上げよう」
「カイル・・・・(ひしっ)」

乗っていた人たちは口々に感想を述べながらゴキブリの形そっくりのタイムマシンを降り、特殊光線で体を元の大きさに戻すと、王宮の各所に散っていった。
タイムマシンの手入れを始めたシュンシューンを残して。
 
 
 

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(C) 2003 SHUN-SHUUN INARI