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「天は赤い河のほとり」パロディ小説(15)

イル・バーニの日記〜ある文官の物語



シュンシューン・イナリはどんなふうにやってきて、どんな活躍しているのか、イル・バーニが膨大な日記を残しているので、その中からシュンシューンに関係するごく一部を紹介します。
(パロ小説14話までの範囲で)
 
 
 
 

日記1 (新しい移民)
今日は慌ただしい1日だった。ユーリさまがカシュガの戦いから戻られ、キックリから馬術を習っているところに立ち会っていたところ、私の付き人が呼びに来た。

王宮の一室に入ると、若い夫婦に子供が二人座っていた。ただ、見慣れない身なりをしていた。よく見ると、ユーリさまが日本から着てきた服と感じが似ている。
この者は?、と私は部下の文官に尋ねた・・・
部下の話
わたしがハットウサ郊外を巡察していると、見慣れない服を着た家族連れがいました。名と身分を尋ねると「太陽の昇る国の貴族、しゅんしゅんとその家族にございます」との返事。貴族を粗略に扱うわけにはいかないので、すぐに馬車を仕立てて王宮にお連れ申したということです。
なにやらタイムスリップとか申しておりますが・・・・

タイムスリップ、太陽の昇る国(=日本)、見慣れない服。私はひらめいた。ユーリさまと同じ状況である。太陽の昇る国に身分制度が存在するかどうかは疑わしいが(ユーリさまは「身分のない国から来た」ということで当初は平民扱い)、彼は先祖の身分「士族」を主張し、私はそれを受け入れた。あることを思いついたのである。

今後のことについていろいろ話をしたいが、今日の所は、ヒッタイトの生活習慣に慣れてもらうのが先である。ユーリさまに生活習慣を教えた女 官の一人を呼び、太陽の昇る国からやってきた彼らに一通りのことを教えてもらうことにし、王宮内の貴族用ゲストルームに入ってもらった。
 
 

日記2  (新しい生活)
翌日、私はシュンシューンと面談した。タイムスリップの状況から、ここに留まるしかないのはユーリさまと同じである。
ただ、先に貴族と言うことにしたので、ユーリさまのように陛下の庇護がなくても大丈夫だろう。
さらに、彼は法律のことを知っているようなので、文官として召し抱えることにした。貴族の移民が文官を務めるのは珍しいことではない。私の先祖もそうであった。

実は、ここのところ、文官の多くが金銀財宝につられてナキア皇后派に寝返っているので、カイル殿下に仕える文官は喉から手が出るほど欲しいのだ。
早速、カイル殿下にお目通りをしていただいたところ、殿下は大変喜んでおられた。
次に、ユーリさまとも面会。二人は「日本語」で話をしていたので、話の内容は全く分からないが、タイムスリップしたときの状況と、召し抱えられたことのお礼をしていたようだ。

午後は、私の部下に、これから澄むことになる住宅に案内させた。本来なら高級文官・貴族用の屋敷をあてがいたいところだが、カイル殿下派の新たな文官を高級貴族の屋敷に住まわせると、ナキア皇后派の文官の目に付くので、念のため、「下級文官・小隊長用」の住宅を用意して、そこにひっそりと住まわせることにした。
必要な家財道具は、私の私兵に買いに行かせたり、部下の家族が集めたり……てんやわんやだったようである。
 
 
 

日記3 (七日熱騒動) パロ11話「カタパの街の偽物騒動」より
やっぱり派遣すべきではなかった。私は思いっきり後悔した。
帝国内で七日熱が流行し、元老院の文官も各地に応援に行くことになった。
ただ、帝位が交代して政権がガタガタしている時期であり、「政治的に有力な」文官はカイルさまの手元に置いておきたい。そこで、私の秘密兵器ともいうべきシュンシューンをカタパの隣町に派遣したのだが・・・

ウルヒ・シャルマの目は節穴ではなかったのだ。カタパの町にいつの間にかイシュタルさまの偽物のほか、シュンシューンの偽物まで送り込んでいたとは。
ウルヒの奴は、これで私がハットゥサを離れれば、と思っただろう。だけど、知略の面ではカイルさまより勝っている私、この大切な時期にハットゥサを離れる訳がない。

たまたま、シュンシューンの妻、アリエル・ベンザイテンがこの件の報告にやってきたので、ちょっとスキルに難があったが、私の名代に仕立て上げ(彼女も旦那のためなら、ということで引き受けた)、アイギル議長からご嫡男キルラさまをお借りして、無事事件は片づいた。

それにしても、アリエルの知略もなかなかのものだと感心した。これぞ究極の内助の功である
早く私も嫁さんが欲しいよ〜
 
 
 

日記4 (○ン様騒動)
七日熱の騒ぎも何とか収まった。
新しい皇太子もカイルさまにきまり、シュンシューンも政務に復帰した。
ところが、シュンシューンの通勤の際、通勤の道で多くの若い女性が通勤の様子を見ているという情報が入った。
最初は私も彼も首をかしげるだけだったが、日を増す毎に通勤を見守る女性の数が増え、無視できない数に。
さらに、元老院の玄関には「シュンシューンさまの側室希望」の女性がちらほらと。
その内のひとりを中に入れて話を聞くと、世間は「シュン様フィーバー」で、その女もシュンシューンのファンとのこと。
密偵を市中に放ち、調べさせると「四十八種の魔法を使って女性を酔わせる、異国・太陽の昇る国からやってきたイケメン」ということで、裏ファンクラブが結成され、彼の肖像を刻んだ粘土板や銅像まで闇で売られている。
シュンシューンは「肖像権侵害だ」と怒っていたが、残念ながらヒッタイトには肖像権の考え方はない。
が、彼の政務に支障があるし、他の貴族や文官も苦々しく思っているので、何とかしなければ・・・

私がいろいろ知略を巡らせている内に、とうとう事故は起こってしまった。その日は祝祭があり、たまたま人出か多かったところにシュンシューンの馬車が通りがかった。(とても徒歩では移動させられない)
そこに、祝祭で興奮状態のファンが押し寄せ、兵士の制止も効かず、けが人が8人も出てしまったのだ。

その日の午後、私は、カイル殿下とアイギルさまに呼ばれた。「そなたの部下が『シュン様』と呼ばれて民の間で評判になっているようだが、軍人や文官の中には快く思っていない者が少なくない。それに、事故まで起こってしまって・・・・・・何とかしろ」と叱責された。

そこで、私は私兵や近衛隊の兵士に私服を着せ、ファンの群衆の中に紛れ込ませ「四十八種の魔法を使いこなすのは、太陽の昇る国の男性の一部で、シュンシューンは魔法を使わない」という噂を流した。
さらに「シュンシューンを見に集まって来る群衆の中には痴漢が出るという厳重な警告を元老院から発した。
これで、集まるファンは多少減ったが まだまだである。
そこで、警告を10日間出し続けた後、とうとう私は近衛兵に指示を出した。
作戦決行日の朝、シュンシューンを見に集まった女性から黄色い声が上がったが、いつもの歓声ではなく「キャー」「やめてー、変態」「そんなところ触らないで!」という悲鳴だった。
中には『痴漢』を捕まえて警備の近衛兵に引き渡した勇気ある女性も多かったが、同僚を引き渡された近衛兵は私の指示通り片っ端から逃がしていった。

こうして、『シュン様』騒動は私の知略で幕を閉じたのだった。

彼はどうかって?。彼はアリエルしか目に入っていないので、騒動が片づいてほっとしたようだった
 
 
 

日記5 (神官?)
第四神殿に大切な用事が出来たが、今日はシュンシューンが出仕していないというので、私が自ら足を運ぶことにした。
カイル皇子の義妹で第四神殿神官長の、ネピス・イルラさまのところにお伺いした私は目を丸くした。
ネピスさまに付き従っている白マントの神官。よく見るとシュンシューン・イナリではないか。
私は、ネピスさまへの用事を済ませた後、神官の格好をしたシュンシューンに話を聞いた。

「私は太陽の昇る国の神『稲荷』に仕えていました。(これはヒッタイト向けの出鱈目:作者註)  稲荷はキツネをお使いとする神さまです。で、ネピスさまにお会いしたところ意気投合。『人間や風、水を操る上級の神官は子供の時から修行をしないとなれないが、動物や虫を操る下級の神官ならそなたの力を伸ばせばなれる』と言われ、時々ここで修行していたのです。カイルさまもこのことはご存じで、『自分の腹心の神官は多い方がよい』と喜んでいたそうです。」
確かに神官には違いないけど、動物や虫を操って役に立つのか?とその時は思ったのだが、それは間違いで、彼はわずかな能力を最大限に生かしていた。
参照:パロ3話「ウガリット物語」(ハエ・ゴキブリ)/パロ4話「オロンテス決戦外伝」(鷹、ネコ、蜘蛛)
 
 
 

日記6 (エジプト派遣)
アルザワの軍船が沈没、ユーリさまが行方不明になってから数日。私が諜報員(スパイ)として使っているアルザワの商人からの情報が入った。
ユーリさまはどうやらエジプトに向かったらしいとのこと。しかし、隊商の諜報員のことはカイル陛下も知らない極秘事項。諜報員の情報だけでは陛下に報告することが出来ず、正式に兵や文官を動かすことはできない。
そこで、巡察の名目でシュンシューンをエジプトに送り出すことにした。
シュンシューンは、エジプト側に面が割れていないし、私譲りの知略の力で任務を果たすに違いない。
早速、随行員を私の部下が選んだのだが、シュンシューンはそれに異を唱えた。シュンシューンの身の回りの世話をする下男をメンバーから外し、代わりに案内人としてエジプトから連れてきた奴隷を付けて欲しい、と。
確かに、土地勘が大切なので、彼の言うとおり、エジプトでは中流の自由民だったという者をメンバーに加え、極秘に出発させた。

シュンシューンはエジプトに着くと、その元奴隷の実家の屋敷に逗留してユーリたちの居所をつかんだ。そして、極秘にユーリさまに接触。ルサファを伝令としてヒッタイトに派遣するように伝えた。
さらに、彼は神官の恰好をして、ラムセス将軍の副官、ワセトに接触した。
そこで、『ユーリが一人でエジプトに残ることになるが、殺害などしたら太陽の昇る国の魔法でエジプトは火の海になる』と脅していたが、エジプトでは太陽が信仰の対象になっているので「太陽の昇る国の魔法」という脅しは最大限効果を発揮したようだ。

ルサファがエジプトに向かう当日。ナイル川の中州で漁民の船に乗ったルサファに接触し、ヒッタイトの文官の服と金銭を彼に与えた。そうでなければヒッタイト領内を船や馬に乗ったりして移動できるわけがない。
ただ、私のこの作戦はカイル陛下や3隊長に対して秘密なので、カイル陛下の陣の近くで文官の服を焼却し、エジプト兵の軍服に着替え直すように厳命したが。

その後、「ルサファの情報」に基づいて私と三姉妹がエジプトに到着。そこで、シュンシューンから引継を受けると、彼は私と入れ替わりに戻っていったのである。
(私に代わり、ウガリットで元老院の長老を迎える準備をしてもらうため)
ちなみに、彼は、道案内に連れてきたエジプトの奴隷をそのまま現地に残してしまったようだが、まぁ、いいか。
 
 
 

日記7 (カルケミシュ派遣)(パロ14話「ナキアさまの一日」より)

カルケミシュから早馬が来たとき、最初に報告を聞いた門番隊の中隊長は腰を抜かさんばかりに驚いたという。
「シュンシューンさまがナキアさまを寝室に召した」という報告だったからである。
何も知らなかったら、私も腰を抜かしていたに違いない。

でも、実際にはあの二人は何もしていないのを私は知っていた。どういうことかというと、あの日、私は退屈しのぎにプチ水盤でナキアさまの様 子を見ていた。すると、ご機嫌伺いを終わった後のシュンシューンに親しげに声をかけ、その後、ナキアさま自ら、いそいそとゲストルームのベッドを整えた り、枕元に香油を用意していた。
私はキックリと相談し、皇帝陛下に奏上。皇帝陛下は「もしかしたら面白いものが見られるかもしれないぞ」とおっしゃり、皆を集め、大きな水盤を用意し、宴となったのだ。
女官の誰かがアリエルに話を漏らしたらしく、アリエルは目をつり上げつつ、やってきた。
私は早速、医師を待機させた。水盤の中の結果次第では、アリエルが取り乱したり気を失うかもしれない。それにしても、太陽の昇る国の女性はどうしてこうも『奥手』で、恋愛感覚が子供みたいなんだろう。

カッシュが籠を3つ用意し、粘土板に「彼女は誘惑しない」「誘惑して成功」「誘惑するも失敗」と書いて、賭けの準備が整った。
水盤の中の事が進むにつれ、アリエルの顔はこわばっていく。いよいよ気を失うか取り乱すか……。
でも、シュンシューンが携帯用水盤を持っていったとは知らなかった。そのため、こちらで覗いている様子がばれてしまった。もう少しで私が賭けた「誘惑して成功」になるところだったのに……

ちなみに、彼が帰ってきてから話を聞いてみた。すると、
「いくら流刑されているとはいえ、元皇太后さまの頼みを『イヤです』などと言って、断れるわけがないじゃないですか。王宮で水盤覗きをやっていたおかげでナキアさまは続きを断念しましたが」
 
 
 
 

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(C) 2004 SHUN-SHUUN INARI