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「天は赤い河のほとり」パロディ小説(8)

「皇帝陛下の憂鬱」



カイル、遠征中
カイル・ムルシリ二世率いる皇帝親征軍はカルケミシュ郊外に到着した。
明日は市街地へ総突撃。兵士や隊長達も達も早めに休み、思いがけなく暇になったカイル。
・・・・・・そう言えば、輜重隊(しちょうたい=荷物を運んだり管理する部隊)はベケスの隊だったな。ということは

「キックリ!!」「はい!」「輜重隊の帯同文官、シュンシューン・イナリをこれへ」
出陣の数日前、ユーリに日本の結婚式について尋ねたのだが、ユーリは結婚式に出たことがないそうで今ひとつ説明にパンチが足りない。太陽の昇る国から来た シュンシューンは既婚者なので、日本の結婚式について聞いてみよう・・・・・

「第一輜重隊長、ベケスにございます」「あれ!?、私はベケスには用はないのだが・・・シュンシューンはどうした」
「申し上げます」ベケスは言った「シュンシューンさまは、イシュタルさまのご命令で今回は帯同頂けませんでした。」
「そうか・・・・。ベケス、ご苦労だった。下がって良い。私はシュンシューンに用事があったのだ」「はっ」

ユーリが、たかが輜重隊の帯同文官の人事に口を挟んだ。どうして???
カイルの胸に、黒い霧がかかりだした。



今回の遠征の目的とは

ナキア皇太后が失脚、ユーリ・イシュタルさまが立后したのち、皇帝・ムルシリ二世は平和な治世を布いていたが、あるとき、カルケミシュで、かつて、ナキア 前皇太后が使っていた私兵の残党ととカルケミシュ軍が小競り合いをはじめた。
カルケミシュ知事、ジュダ皇弟殿下率いる大半の軍が、遠征訓練に出かけた隙を突かれたのだった。
本来は部隊長クラスの軍で収められる小競り合いだったが、皇帝の威光を見せつけるのと、若い兵士に実戦を体験させるため、ムルシリ二世は若い兵中心の部隊 とともに、カルケミシュに親征することになった。

このような場合、27巻より前のコミックのパターンだと、近衛長官だったユーリも出陣するのであるが、現在、ユーリは帝国ナンバー2のタワナアンナ。皇帝 不在の時は皇帝に代わって政務をしなければならず、危機管理の考え方から、王宮から出られなくなってしまい、カイルはユーリとしばしの別離を味わっていた のだった。




凱旋
戦いは予定通り、皇帝親征軍の圧勝だった。
皇帝親征軍は未熟な若い兵士中心の部隊にもかかわらず、ナキア前皇太后の私兵はことごとくうち倒され、降伏した元兵士全員はハットゥサとカルケミシュへの 立入を禁止され、ヒッタイト国内や藩属国各国へバラバラに流刑となった。
ナキア前皇太后を監視する任にあったジュダ殿下へは、元私兵とナキア前皇太后との関係を調査し、適切な処罰を行うように命じた。

皇帝親征軍はハットゥサに凱旋したのだが、エジプト帰りのような熱狂的な歓迎ではない。
ちょっと寂しいが、以前シュンシューンは「平和な国の軍隊」の話をしてくれたっけ。
平和な国の軍隊はこんなものなのかもしれない。
カイルの一行は、タワナアンナの祝福を受けるため王宮に着いた。




あれ???
王宮の玄関には、ユーリが待っていた。
カイルの留守中、イル・バーニは王宮から一歩も出さないと言っていた。アウトドア派のユーリにはさぞかし辛かったことだろう。
今宵はたっぷりかわいがってあげなくては・・・・・・
カイルは思った。

でも、その割に、ユーリは辛そうな顔と言うよりは、さっぱりした顔をしているではないか。
それに、ユーリの傍らにはなぜかシュンシューン・イナリが控えている。
一見、おかしくないように見えるが、大事な凱旋部隊お迎えに、シュンシューンより格上の文官を差し置いて彼が控えているのもよくよく考えてみればヘンであ る。
ユーリが輜重隊の帯同文官から彼を外してハットゥサへ残したことも。



寝室で
遠征の残務整理が終わったのは、夜もすっかり遅くなった時間。
カイルが待ちこがれたユーリに会うために、後宮へ向かうと、女官のハディとアダがこそこそとユーリの部屋の方向から去っていった。
ユーリの部屋に入り、愛しいユーリを抱きしめる。そして・・・・・・
でも、カイルが予想していたよりも、なぜかよそよそしい

カイルは、ユーリを離すと、ピロートークを始めた。
若い兵士達の思いがけない活躍、若い料理兵が作った失敗料理、ナキア前皇太后の様子・・・・
でも、何かおかしい。いつもなら目を輝かせて聞いてくれるのに、何かを胸に抱えているようだ。




黒い霧
「ところで、ユーリ」カイルは「留守中の様子の質問」の1つとして何気なく尋ねた。
「輜重隊の帯同文官からシュンシューン・イナリを外したのはどうしてなのか??。タワナアンナ自らの人事、ということで評判になっていたぞ。それに、遠征 中ヒマだったので、日本の結婚式の話を聞きたかったのに」
すると、ユーリはぶるぶる震えだし「な、何でもないの。に、日本の著作権法を勉強したかったから残ってもらったの」そして、「カイル、今日は疲れたで しょ。おやすみ」とベッドの隅っこに移動して背を向けて寝てしまった。

何かおかしい。著作権法の勉強のためだけに有能な文官を残すなんて不自然だ。
カイルは疲れて寝るどころか、胸の中が黒い霧でいっぱいになって寝られない。
ユーリの気持ちよさそうな寝顔も、今晩はふてぶてしくさえ見える。



留守中の王宮の様子は・・・
翌朝、カイルはキックリを呼ぶと、極秘調査に入った。
キックリは何人かの女官などに聞き取りを行った結果、

ユーリは王宮の門からは全く出ていない
カイルがいなくなってから段々ふさぎ込んでいたが、ある日を境に急に元気になった
ユーリが元気になったのを境に、シュンシューンが控えるようになった
ユーリさまが女官と一緒にシュンシューンの執務室へ入ったあと、部下の文官たちを全員早退させ、扉を閉めてカギを掛けて室内に閉じこもっていたこともある
という回答を得られた。
たけど、不思議なことに、女官のハディとアダは「別に変わったことなかったわよ」と言っていたとのこと。
(アダ=25巻で登場した女官。リュイとシャラがそれぞれ育児に入った時期なので、双子の代わりにここで仕事をしている)




カイル、抜剣
報告を聞いたカイルは、シュンシューンの執務室へ向かった。目はつり上がり、剣の柄に手を当てている。
「シュンシューン!!剣を抜け!!」「きさま、留守中、ユーリに何かしたのか」「なぜお前は輜重隊に帯同しなかったのか」
カイルは矢継ぎ早に問いかけてくる。 「滅相もございません。剣では皇帝陛下に敵うはずがございません。私はユーリさまに指一本触れておりません。輜重隊に帯同しなかった事や、お迎えの時にお 側に控えていたのはユーリさまのご命令でございます。」

シュンシューンはひれ伏し、震えながら答えた。

「何か怪しいな」カイルは納得しない。
「近衛隊、調べが済むまでこの者を出してはならぬ」と近衛兵に部屋の入口を固めさせ、シュンシューンは監禁されてしまった。

しばらくすると、女官のハディとアダもカイルに叩き込まれて入ってきた。
「お前達、私に隠し事をしているのではないか。正直に言わないと、死罪にするぞ。調べが済むまでここから出てはならぬ」
皇帝陛下はこう言い捨てて3人を閉じこめ、部屋を後にした。
「シュンシューンさま」「ハディさま、アダ・・」3人は顔を見合わせた。
「あのことは皇帝陛下に申し上げたのですか?」「いいえ、あのことだけはしゃべるわけには行きますまい」
この3人、何か共通の秘密を持っているようである。





カイルが向かった先
カイルは焦っていた。あの3人、何か隠している。それに、ユーリも妙によそよそしく私を避けている。
そうだ、とカイルは数名の兵士と女官を連れて王宮を出た。
兵士に案内させたのは、シュンシューン・イナリの自宅であった。
シュンシューンに女が出来たとするなら、女房のアリエルがきっと何か気が付いているに違いない。もし、そうではないとしても、女房を王宮に連れ帰り、剣を 擬してシュンシューンに真相を吐かせる手もある。

シュンシューンの家の中からは、子供達と母親が言い争う声がしているが、頭に血が昇っているカイルはノックもせず扉を開けた。
「アリエル殿!!」「まあ、皇帝陛下。このようなむさ苦しいところに」
カイルは簡単に事情を説明した。が、アリエルはこれに対し「私から何も申し上げることはございません」
(あの3人が隠し事をしているのと同じ様子だ。アリエルまで・・・)
カイルは、アリエルを王宮に連れ帰り、拷問に掛けようとしたところ・・・・・・

「ムルシリおじさん聞いてよ」とシュンシューンの子供、ミツキとミニイがカイルに飛びついた。
「パパとママったらひどいんだよ。あたしたちを置いて、大人だけで東京ディズニーリゾートに行ったんだ」
「だれと行ったの??」カイルがなにげなく尋ねた
「えーと、パパとママとハディおばさんとアダあばさんとリュイおばさんに」「あと、ユーリおばさん」
「ぼくたちだって日本に里帰りしたかったのに、大人だけで遊びに行くなんて」「エーン」



ての謎が解けた!!! カイルは、ひらめいた。
「アリエル殿・・・」「申し訳ございません。実は・・・・・」「そうか。アリエル殿。そなたは悪くない。よく言ってくれた」
カイルは自分の戦車にアリエルとミツキとミニイを丁寧に乗せると、王宮に向かった。




カイルに付き従っている意外な人物
キックリが 「皇帝陛下のお越しにございます。」と3人が閉じこめられているシュンシューンの執務室にやってきた。
シュンシューン、ハディ、アダは平伏した。
シュンシューンは顔を上げてびっくり。カイルのマントの後ろに、アリエルとミツキとミニイが付き従っているではないか。
「あなた、子供達が・・・・」とカイルのマントの陰からアリエル。
「そう、正直な子供達のおかげでそなたたちは拷問を免れるようだ。全部話すがいい」カイルは優しく、かつ毅然とした態度で言った。




シュンシューン、ハディ、アダの話
カイルの予想通り、王宮に残されたユーリは、次第に機嫌が悪くなり、皆に当たり散らすように。
しかし、ユーリは自らそれを予想して、シュンシューンを遠征に参加させなかった。
政務に育児。我慢の限界に来たとき、ユーリはパンドラの箱を開けた。
シュンシューンの執務室に行き、ドアを固く閉ざし、タイムマシンで東京ディズニーシーへ遊びに行ったのだった。
その時のメンバーはシュンシューン、アリエル、ハディ、アダ、リュイ、ユーリであった。
(シャラはお留守番。双子の双子の子、4人と、シュンシューンの子2人の子守のため)

現地では色々あったが、気分転換をしてすっきりしたユーリは残りの期間を快適に過ごしたのだった。
政務もはかどり、文官たちは喜んだという





寝室で
「ユーリ、今宵も私を避けるのか?」カイルはユーリに問いかけた。でも、声に昨日のようなとげとげしさはない。
「東京ディズニーシー、楽しかったか??」カイルの声は余裕に満ちている。

「誰が!?」ユーリは思わず口走った。 「正直者のミツキくんとミニイちゃんだよ」
「うわぁーん」ユーリは号泣した「私、タワナアンナの仕事放りだしてディズニーシーに遊びに行ってしまったの。カイルたちが一生懸命戦っているというの に。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

「ユーリ。私はそんなことはどうでもいいのだ。政務には支障が無かったのだし、愛するユーリが機嫌良く過ごしてくれれば。」
「えっ」
「それよりも聞きたいのは、まず、本当にシュンシューンとは何も無かったのだな??」
「うん。私たちがディズニーシーに行ったとき、彼にはアリエルがずっと一緒だったし、私はカイルしか愛していないわ」
「そうか」カイルの顔は一段と穏やかになった。
「輜重隊の帯同文官からシュンシューンを外したのは??」
「カイルの想像通り、タイムマシンの運転手を確保するためよ。私一人じゃ操縦できないよ」
「旅行後、シュンシューンが付き従っていたと言うが」
「政務の合間にディズニーシーとかの話をしたりしたの。それに、彼と奥さんべたべただったから、ちょっと妬けちゃって。それで私に従わせてみたんだけ ど・・・」
「皆に口止めしたのは?? 危うく皆を拷問に掛けるところだったぞ」
「だって、政務を放りだして遊びに行くの、知られたくなかったんだもん。だから、昨晩、カイルが来る前にハディたちを呼んで口止めしたの。」

カイルとユーリの間のわだかまりはすっかり解け、元通りの二人になったのだった。




賞 罰
翌日、すっかり穏やかな顔になった皇帝陛下とタワナアンナの前に、シュンシューン、アリエル、ミツキ、ミニイ、ハディ、アダがいる。
「今回の件、すべて了解した」皇帝陛下は言った。
「皆に賞罰を与える。シュンシューン、皇帝に隠し事をした罪で、停職3ヶ月」「ははぁ」
「なお、停職中にエジプトを巡察し、報告書を出すこと」
「正直者のミツキくんとミニイちゃん、それにアリエル殿には、エジプト旅行をプレゼントしよう。パパと行ってきなさい」
「わーい」子供達は大喜び。
「なお、ハディとアダには・・・・・・」
シュンシューンは、人の賞罰なんてどうでも良かった。
それよりも、いくら貴族待遇とはいえ、こいつら連れてエジプトまで行けるのかなぁ、とそちらが心配である。




ご案内
このお話は、パロディ9話「ユーリの未来旅行」と同時進行していますので、併せてご覧になることをお勧めします
(上記で、ユーリが行った未来旅行の詳細なお話です)



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(C) 2004 SHUN-SHUUN INARI