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「天は赤い河のほとり」パロディ小説(4)

オロンテス決戦外伝(上)



幕営にて
昨晩のウガリット王宮は大変な騒ぎだった。ユーリさまと皇帝陛下がウガリット王宮にお戻りになり、各地からも大勢の兵士が集まっていた。
元老院文官、シュンシューン・イナリも王宮内でこれらの対応に追われ、久々に持ち場である幕営に戻ってきた。

今回の決戦では、シュンシューンの任務は幕営にある荷駄の管理だった。コミックには登場しないが、戦闘行為と同様に大切な任務である。
シュンシューンは下級文官や輜重兵(しちょうへい=荷物を運んだり管理する兵士)とともに物資管理の任に当たっていた。

すると、一人の中級兵士がシュンシューンのもとにやってきた。
 
 

特別小隊の任務
「シュンシューンさま」「ベケスではないか。久しぶり。どうかね。新婚家庭は」
「はっ、おかげさまで新婚生活が・・・」ベケスは、一瞬ほっとした顔をしたが、「それよりも、知恵をお貸しいただきとうございます」
「ほう、私に??」「はい」

彼は少し前の「村長勘違い事件」(パロディ03) で、美しい妻を手に入れたものの、弓兵隊の仲間の間で居づらくなり、転属を願い出た。
一方、法律の他、戦場では物資管理の任も負っているシュンシューン、弓の使い手である彼が輜重隊に入隊すれば隊員の志気も上がるだろうと考え、手元に置くことにしたのである
今の彼の任務は「輜重特別小隊小隊長」。3日後に予定されている総突撃に呼応してエジプト軍の陣地に忍び込み、エジプト軍の物資を使えなくするというものである。
ところが、斥候に調べさせたところ、エジプト軍幕営には荷駄の護衛として兵士が100名と奴隷が1000名近くいるとのこと。こちらは200名程度の兵士でそこを襲うのである。
「ふむふむ、それで?」
「戦力不足は明らかなので、第二歩兵隊長のゾラさまに増員を要請したところ『荷駄ごときに兵士を回せるか』と全く相手にしてもらえません。王宮にはあんなに護衛兵がいるのに」

(ミッタンナムワさまは王宮に詰めているのか・・・困ったぞ) シュンシューンは呻いた。
 
 

「私をお使い下さい!!」

「シュンシューンさま、攻撃には私たちをお使い下さい」
「いいえ、どうぞ私たちのところに。」
「シュンシューンさまのご命令ならば我々は命など少しも惜しくありません」
「どうぞ、お命じを」
コックや馬屋の作業員が続々とシュンシューンの元にやって来た。

(でも、戦闘能力の無い者をいくら集めても、戦場では役に立たないだろうな・・・)シュンシューンは密かに考えた。
「ありがとう、でも、それはできないよ」
「シュンシューンさま、お言葉ですが、誰かがエジプトの幕営を襲わなくては、任務は果たせません」
「でも、いくら幕営を襲うだけだとは言っても、こんなことでみんなを失いたくないし」
「シュンシューンさま、私たちのことなどは」

「人間が使えぬのなら、他のものを使うまでのこと」
「えっ」
「書簡を書くので、ユーリさまのお鷹を借りてきてくれ。それから・・・・・・・」

シュンシューンは、何人かの兵士に耳打ちすると、支度を始めた。
 
 
 

作戦開始
作戦当日、ベケスの率いる特別小隊200名とユーリさまのお鷹、シムシェックJr.を連れたシュンシューンはエジプト軍の幕営を見下ろす高台に着いた。
荷駄の回りには護衛兵100名と奴隷1000名がついている。

「では、作戦開始とするか」
ヒッタイト兵たちは持っていた袋の口を開けると、中からネコを取りだして野に放った。その数も一人10匹。合計2000匹
「シムシェーーック」シュンシューンはシムシェックJr.も放った。彼はエジプト軍幕営に向かって一目散に飛んでいく。ネコたちはその後をついていく。シムシェックJr.の足には袋が付いておりマタタビの粉を撒いているのだ。
シュンシューンは魔法の力で全てのネコにシムシェックの後を追わせた。
 
 
 

シュンシューンの奇策
幕営に付いたシムシェックは、荷駄、特に食料の上にマタタビの粉を振りまいた。
ネコたちは、食料の包みを破ると、中の食料を荒らし始めた。

驚いたのは護衛のエジプト兵と奴隷たちである。エジプトではネコは神のお使いの神聖な動物であり、追い払うなんてもってのほか。
「ネコさまだぁ」と逃げまどうばかりである。

この様子は戦場にいる 兵士たちにも伝わった。
「ネコさまが食料を召し上がっているぞ」「俺たちの食べるものが無くなってしまったのか」
兵士たちは動揺した。
この、わずかなほころびがエジプト軍総崩れの始まりの原因であった。
 
 
 
 

うまくいったぞ
一瞬、ヒッタイト陣営にも戦線の乱れはあったが、すぐに体制を立て直したようである。
イシュタルさまがタワナアンナ旗を掲げて全軍を指揮している。(この特別小隊は関係ないが)
そういえば皇帝陛下はどこに??。んんっ??、あそこではフル○○の男が二人、川縁で戦っているぞ、ありゃなんだ??
そうそう、そんなことよりも、自分の任務だった
動物を操る神官の位ももつシュンシューンは、シムシェックJr.とネコを呼び戻した。
シムシェックJr.はシュンシューンの肩に。
2000匹のネコも、大半が戻ってきた。

シムシェックJr.を肩に乗せたシュンシューン。ネコの入った袋を担いだ兵士たちとともに戦場を見ると、戦場は和やかな雰囲気になっていた。

幕営に戻り、ネコをケージ(御檻)に入れると、兵士たちは仲間を迎えに行った。これから、裏方は大忙しである。
負傷者の手当、食事の配給・・・・
 
 
 

シュンシューン、もう一つの仕事
幕営を見回っているシュンシューンのもとに、一人のぽっちゃりとした王宮女官がやってきた。
「シュンシューンさま、お疲れのところ申し訳ありません」
「王宮の女官さまがこのようなところに??」
「実は、ハディさまの密命を帯びてやってきました。」

ユーリさまの命を狙っているエジプト兵、タハルカ。講和後の拘束なので、皇帝陛下は寛大な処置としたが、ハディさまとシャラさまは、ど────────しても奴が許せないと言う。そこで・・・・
「ハディさまの密命となれば・・・でも、ユーリさまや皇帝陛下は???」
「それが、ユーリさまや皇帝陛下には内密に」
「こーゆーのって、私刑(リンチ)じゃないの??」
女官はいきなりシュンシューンの首っ玉にぶら下がると、ほっぺにチュ。「おねがい♪」
(ハディさま・・・戦場でこーゆー状態の時に私のタイプの女官を差し向けるとは。なかなか)
結局、引き受けることにしたシュンシューンであった。
女官は、ハディさまから命じられたことを成し遂げることができ、心から嬉しそうだ。
シュンシューンはいそいそと腕にぶら下がって付いてくる女官と一緒に、タハルカが閉じこめられている牢に行くと、また魔法をかけた
集まってきたのは、大量のミミズや蜘蛛たち。数刻の間、絶叫するタハルカの体はミミズと蜘蛛で覆われた。でも、跡は残らないので、皇帝にばれることはない。..................??
 
 
 

シュンシューン、ピンチに
ウガリットに戻ったある日。
「シュンシューンさま、皇帝陛下がお呼びです」シュンシューンの執務室にキックリがやってきた。
シュンシューンはあわてて 身支度を整えると、皇帝陛下の執務室に向かった。
そこには、ユーリさまと皇帝陛下が険しい顔をして立っていた。
「講和受け入れの後にエジプト兵を虐待するとはなにごとか、シュンシューン!!」
「私、そんなこと頼んでいないわ」
皇帝陛下とイシュタルさまに厳しく叱責されたシュンシューン、ひれ伏すと「お詫びの言葉もございません」

(どうしてばれたのだろうか)シュンシューンが考えていると、キックリが言った「シュンシューンさま。あの日、文官の腕にぶら下がって歩く妙な女官がいる、ということで近衛隊が後を付けていったところ、タハルカの牢で・・・・。」
 
 

「シュンシューン、そなたに見てもらいたいものがある」と皇帝陛下は後に付いてくるように促した。
廊下には大勢の兵士が立っている物々しいエリアに入った。
(ここにウルヒが閉じこめられているのか・・・)
ウルヒが閉じこめられている隣の部屋の扉を皇帝陛下は開けた。中には・・・・

「ハディさま!!」「シュンシューン、ごめんね。変なこと頼んじゃったから」
寝台の上に薄もの一枚で横たわっているハディ。手足は柔らかい布で軽く縛られており、大きく動かすことはできないようだ。
体がてかてか光っているのはミルクを塗られたから??。
「皇帝陛下、純潔の牝ネコ3匹、御用意が整いました」
皇帝陛下はサッと手を振ると、女官たちは手に持っていた袋の口を開けた。
中から3匹のネコが出てきた。お腹ぺこぺこのようだ。
ネコたちはハディの体に取り付くと、ぺろぺろとなめだした。
「ああっ〜」「くすぐったいよ〜」「いや〜ん」「でも、舌のざらざらとした感触が気持ちいい」「あんっ」
 
 
 

身もだえているハディをあとにして「シュンシューン!!」「はっ皇帝陛下」
「皇帝に逆らうものは本来は死罪でもおかしくないが、まあ、悪気があってやったことではないから、あの罰とした」
「ははぁ」
「シュンシューン、いくらハディから頼まれたとはいえ、あなたも無罪というわけにはいかないわ。あなたの立場なら断れたはずよ」
「御意にございます、イシュタルさま」

「幕営にいる2000匹のネコたち。あなたの責任で飼い主を見つけてあげて。これが罰よ
 

シュンシューンがとぼとぼと廊下を自室に戻っていると、ネコの入った袋を持った女官と行き会った。ハディさまへの罰が終わったらしい。
 
 



ネコたちの新しい飼い主
ネコをいつまでも仮幕営に置いておく訳にもいかず、シュンシューンとベケスの小隊は、凱旋部隊に先行してハットゥサに戻ると、民衆の歓迎を受けた。
「おめでとうございます」「シュンシューンさまの特別小隊の話も伺っております」
ベケスの駐屯地は大変な人だかりである。そこで、 シュンシューンは民衆たちに、こう告げた。
「このネコは皇帝陛下から皆に賜るものである。希望者する者には下げ渡すが、心して飼うように

「私に、ネコをお分け下さい」「エジプト兵をうち負かしたネコを私にも」人々は殺到した。

日が暮れるまでには、幕営のネコは全て市民のペットとなった。はずだが・・・・

シュンシューンが自宅に帰ると、シュンシューンの馬に乗せた荷物の中から一匹の真っ白な雌の子猫が。
人だかりが怖くて、荷物に隠れていたらしい。
子供達は頭にリボンを付け、「キティ」と名付けると早速餌を与えた。
 
 

凱旋祝賀会で
「おい、シュンシューン。皇帝陛下から罰を食らったそうだな」凱旋祝賀会の開始前、元老院文官控室で文官仲間に冷やかされた。
「シュンシューンのところではネコ2000匹飼うって本当か??」
「殺したりしたらイシュタルさまのお手討ちだぞ〜」

「ははは。まさか。ところで、お前の家、昨日ネコもらってこなかったか??
「ああ、うちの召使いが1匹、雄の三毛を皇帝陛下より賜ったとかでもらってきたが。。あーっ、お前、まさかっ。そのネコって・・・」
「うん、そうだよ」
「やられたーー」
 
 
 
 

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※「オロンテス決戦外伝(下)」では天河キャラクターは一切登場しません。


(C) 2004 SHUN-SHUUN INARI