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著作権講座
ミッキーマウスの著作権はいつ切れるのか??



ミッキーマウスといえども著作物。著作物には保護期間が決まっていて、それが過ぎると「パブリックドメイン」(公共の物)になり、誰でも自由に(※1)使えます。では、一体いつから切れて、自由に使えるようになるのか。 様々な説を紹介したいと思います。
ここで紹介した以外の考え方があればお教え下さい。(紹介することもあります)

このページは2004年3月に大幅に書き直しています。解釈も大きく変更していますので、以前ご覧になった方は御注意ください。

なお、著作権のひろば内の「ミッキーマウスの著作権はいつ消滅するのか」にも詳しいお話が書かれています。
(結論ではなく、あくまでも結論を導き出すための道筋です。法律の条文などはこちらを参照された方が確実だと思います)
ちなみに、私のは「いつ切れるのか??」、著作権のひろばさんのは「いつ消滅するのか」です。お間違えのないように(笑)




著作権の保護期間、ルールについて

(ここで、著作権の保護期間について復習します。なお、例としてはディズニー、ミッキーマウスに関わる物を挙げています)

●ベルヌ条約加盟国相互間の場合、自国の法律で相手国の著作物を守ることになるので、アメリカ(合衆国)で著作権の保護期間が延長されたとしても、日本国内(※3)の場合は無関係である。
ただし、アメリカにおいて公表されたのが「ディズニー社名義」なのか、「W.ディズニー個人名義」なのかを調べることは問題解決に有効な手段であり、この点においてアメリカの動向は無関係ではない。
(アメリカで認められたからといって日本でも同様に通じるわけではないが、日本の法曹関係者が判断するのには有効な材料ではある)

●アメリカの著作物を日本で使用する場合、戦時加算(※2)として10年強の期間延長がなされている。

●アメリカの著作物の場合、戦時加算の関係もあるので、1921年までに公表(または著作者死亡)されたものは旧法のみの適用を受ける(保護期間38年+戦時加算10年)が、1922年以降に公表(または著作者死亡)されたものは1971年の新法施行に引っかかるので、保護期間50年+戦時加算となる。(1942年以降公表・死亡のものは必ずしも10年ではない)

●2003年以前に保護期間が満了した映画の著作物は公表後50年の保護期間(△)
但し、旧法では映画の著作物については「個人名義で発表された著作物の保護期間は著作者の没後38年」という解釈も可能なため、前者と比べて期間が長い方を採用する
●「キャラクターの著作権」は最初に発表された著作物に付帯するので、この場合「蒸気船ウイリー」が著作権切れであれば、黒目のミッキーマウスの「キャラクターの著作権」は切れるのか、という点について、

現行の著作権法54条2項には
「映画の著作物の著作権がその存続期間の満了により消滅したときは、当該映画の著作権の利用に関するその著作物の著作権は当該映画の著作権とともに消滅したものとする」という規定があります。
この規定について、「公表後50年経過したとしても、当該映画の著作物を利用するのではなく、その一部を抜き出して利用したり映画を翻案したりする場合は54条2項は適用されない」というご丁寧な定説までついており、キャラクターの著作物は映画の著作物とは切り離されて考えられています。

しかし、現行法15条(法人著作)、16条(映画の著作物の著作者)は現行法施行前に創作された著作物については適用しない、と定めているので、ミッキーマウスの権利関係(誰がどの部分を製作したか)は旧法に拠るしかありません。(日本国内で使用する場合は日本の旧著作権法を参照する)
旧法では、現行法54条に相当する規定がなく、個々の契約関係などを当たるしかないのです。


(△)2003年の著作権法改正で、映画の著作物の著作権が50年から70年に延長されました。
ただし、2003年の改正以前に保護期間が終了したものについては50年のままです。
著作権を延長し、一旦パブリックドメインとなったものを再び著作物に指定すること(遡及保護)は、立法上の常識に反するので、こうなったわけです。




「蒸気船ウイリー」の著作権切れはいつか

1989年説
ミッキーマウスの初出が映画「蒸気船ウイリー」であり、
ミッキーマウスが映画のためのキャラクターとして登場し、
「蒸気船ウイリー」がディズニー社の名前で公開されていた場合(♪)は
1929(映画公開)+50(新法による保護期間)+10(戦時加算)=1989年
ということになります。

(♪)蒸気船ウイリーとミッキーマウスが別物であるという考えの場合は両方ともディズニー社名義(法人著作)でなければならない。



2015年説
(2004.3.17 追加)

○「蒸気船ウイリー」が W.ディズニー個人の名前で公開
旧法の場合、個人名義の映画の著作物は「著作者の没後38年」となり、新法の「公開後50年」(新法は個人名義の映画の著作物を認めていない)よりこちらが長くなるので、
1967(ディズニー氏没)+38(旧法による保護期間)+10(戦時加算)=2015年



2027年説
○ミッキーマウスの初出が映画「蒸気船ウイリー」ではなく、W.ディズニー個人名義(※)の原画。
「蒸気船ウイリー」または「ミッキーマウス」が W.ディズニー個人(※)の名前で公開
いずれかの場合は
1967(ディズニー氏没)+50(新法による保護期間)+10(戦時加算)=2027年
ということになります。

(※)アイワークス氏(後述)の場合は3年加算


ミッキーマウスの初出が映画「蒸気船ウイリー」ではなく、原画だという説もありますが、ここではいずれの場合にしろ1928年を初出とします。(伝記によると映画作成がスタートしたのは1928年3月)




ここで、私は「ミッキーマウスの著作権保護期間は既に終了しているのか」に的を絞ってお話ししたいと思います。(「旅行記」的な解釈論を用いずに、現在の私のサイトで使えるかどうかということ)

そのためには、1989年説が採用できるか否か、という事になりますが、問題が2つあります。

ミッキーマウスは誰が描いて、誰の名義で公開されたのか
現行著作権法であれば、キャラクターの著作物は映画の著作物とは切り離されて考えられているため、このような問題は起こりません。(キャラクターが個人名義ならライターの死後50年、団体名義なら公表後50年)
しかし、現行著作権法15条(法人著作)、16条(映画の著作物の著作者)は現行法施行前に創作された著作物については適用しない、と定めているので、ミッキーマウスは旧法に拠って判断するしかありません。(日本国内で使用する場合は日本の旧著作権法)
しかし、旧著作権法にはこの点についてなにも言及していないので、誰が描いて誰名義で公表されたのか、は 当事者が判断するしかありません。

一般的にはウオルトディズニー氏の創作とされていますが、これは伝記の域を出ず、ライターの創作という説もあるのです。当然、ライターの著作物ということになればライターの没年から計算できるのですが、誰が正確な著作者か、という点も一般人の知りうる限り公表されていないので、正確な情報が待たれます。

あと、「蒸気船ウイリー」の映画そのものが誰の名義で公開されたのかという問題もあります。
個人名義の映画というのは考えにくいとしても、あり得ない話ではありません。
(旧法下では、新法のように「映画の著作物の著作者」を規定するものがないため)

ミッキーマウスの真のライターとされるのはアブ・アイワークス(Ub Iwerks)氏(1901.3.24〜1971.7.7)
彼の息子によると『ミッキーはアブの作ったキャラクターである。この点はディズニー・アーカイブも認めている。(アーカイブによると、作成時、ウオルトが肩越しにのぞき込んでいたことになっている) 列車の中で夫人の前で創作したというのはウソ。アブは、オズワルドのスケッチに手を加えてミッキーを作り出した』とのこと。
参考 「闇の王子ディズニー」 マークエリオット著、古賀林 幸訳 草思社

「本当のところ、ミッキーマウスの誕生は、ミッキーのユニークな性格と声を提供したウオルトディズニーとねずみに形と動きを与えたアブ・アイワークスの意気投合した共同作業」
「ウオルト・ディズニー」p112 ボブ・トマス著、玉置悦子/能登路雅子訳 講談社 より引用

この内容を額面通りに解釈すると、ミッキーマウスは少なくとも、ディズニー氏本人の著作ではありません
私としては、アブ・アイワークス氏が描いてディズニー社名義で公開した、と読みとるのが一番自然だと思います。

が、ウオルト氏とアイワークス氏(下記)の共同著作物という考え方も完全に否定できないので要注意です。
(共同著作物は新旧両方に同じような規定がある。この場合、ウオルト氏の後で亡くなったアイワークス氏の没後から保護期間を計算する)




ミッキーマウスの初出は「蒸気船ウイリー」か

仮に、ミッキーマウスも「蒸気船ウイリー」も法人著作であれば問題ないのですが、ミッキーマウスの作者の名前が出ている以上、ミッキーマウスは何のために作られたか、も検証します。

「ミッキーマウスは 『映画の翻案物』」なのか「映画が『原作ミッキーの翻案物』」なのか

前者であれば、ミッキーマウスの初出は「蒸気船ウイリー」ということになり、1989年説を構成する有力な手がかりになります。

一方、原画やイラストが持ち出されて展示会や出版などされていたりすると、後者の考え通り初出は美術の著作物たるミッキーマウスということになります。

これも、日本の旧著作権法だけでは判断が付きません。(規定がないので)
正確な情報が待たれます

この点について、前述の「闇の王子ディズニー」によれば、「1928年3月に映画の製作が始まってから、アイワークス氏と共に扉の向こうに隠されていた」とあります。
この本によると、原画が外に持ち出されて公開された形跡はなく、映画が初出と考えるのが自然です。

というか、映画の前に出たモノが見つからないのです。
(ウオルト氏の伝記などにも「1928年11月18日以前に何某かの著作物を公表した」という記述は私の調べた限りありません。映画の試写はありますが。)






と、いうことで、著作権法の解説よりは、ディズニー社における権利関係や歴史(正確な伝記)を調べることによって、正確な答えが導きだされるような気がします。

旧著作権法ができた時は、このような事態は想定されていなかったはずで、まさに現行著作権法(とその解釈)にはない、いわば法の抜け穴的な話になってきました。

ただ、一つ言えるのは、仮にミッキーマウスがパプリックドメインだと分かった時、私達は世界中の子供達の夢と魔法の象徴であるミッキーマウスをどう扱っていくのかを考えてほしいと思います。






なお、
著作権のひろば内の「ミッキーマウスの著作権はいつ消滅するのか」にも詳しい記述がありますので、ご覧下さい。



著作権が切れると・・・

ディズニーが初めて公表した映画「蒸気船ウィリー」のキャラクター「ミッキーマウス」の著作権が切れた場合、どうなるのでしょうか。
まず、蒸気船、黒目のミッキーマウス、ミニーマウスなどはパブリックドメインとなり、基本的には誰でも使えます。
(黒目のミッキーマウス等に関してはキャラクターの著作権も失われます)

○ 自分のサイトのタイトルに自分で描いた黒目のミッキーマウスを使用
○ 自分で描いたミッキーマウスを、無料のフリー素材として、サイトで頒布。
○ 他サイトの管理人が書いたミッキーマウスを、その管理人の許可を得てダウンロードし、自分のサイトに掲載。

× アダルトサイトのキャラクターとしてミッキーマウスを使用。(著作者人格権[名誉声望保持権]の侵害)
× W・ディズニーの悪口を書くのにミッキーマウスを使用 (著作者人格権[名誉声望保持権]の侵害)
× ミッキーマウスを「しゅんしゅん作キャラクター」として発表。(民法の不法行為)
× 雑誌に掲載されているミッキーマウスをスキャンして自分のサイトに掲載する(出版社の著作権、ミッキーマウスを書き起こしたイラストレーターの著作権の侵害)
× 蒸気船ウイリーまんじゅうを作って無許諾で販売。(商標権の侵害)
× 自分の会社ビルの壁面に無許諾でミッキーマウスを描く。(商標権の侵害)


誰が決めるの??
それでは、ミッキーマウスの著作権はいつ切れるのか、誰が決めるのかといえば・・・

ケース1、ディズニー社のコメント
私のサイトのような小さなところが何を書いても無視されるのがオチですが、例えば新聞とか一流週刊誌とかが「実は切れている、ミッキーマウスの著作権」といった記事を発表したとします。
ディズニー社が2027年説を採っているとすると「その記事は間違いです」とコメントせざるをえないでしょう。そのコメントで「2027年まではだめですよ」と書けば2027年以降は使い放題ということです。

ケース2、裁判
法律というものは、解釈の仕方でいろいろ変わってきます。
この解釈のぶつかり合いが裁判であり、どちらが正しいかは裁判所が決めます。
そこで、骨のあるサイト管理人がディズニー社を相手に「ミッキーマウスは1989年で著作権が切れていることの確認訴訟(民事裁判です)」を起こせば、一発でいつ切れるのかが分かります。それ以外でもディズニー絡みの裁判や著作権の裁判の判決で援用できるものが出れば、それを参考にはっきり言えるのですが。


ちなみに、私の場合はディズニー社に直接問い合わせるという方法をとりました。
(更新日現在、返事は来ていませんが・・・・封筒に入れた返信用切手は何処へ・・)



注意したいこと

仮に1989年でミッキーマウスの著作権が切れたとしても、注意すべきことがあります。

工業所有権など
いくらミッキーマウスの著作権が切れても、意匠権や商標権は(更新が利くので)永久的に保持されます。
従って、お金儲けには利用できません。

後から発表された著作物(作品)との競合/著作者人格権
 自分で描いたミッキーマウスとはいっても、市販されているミッキーマウスチョコのパッケージなど、1953年以降に公表された画像を丸写しするのは不可です。キャラクターの著作権が切れていても、ミッキーマウスの取っているポーズや衣裳の組み合わせが著作物とみなされる可能性があるため。
(例えば、裸のミニーちゃんにきみどり色のビキニ水着を着せた絵を公表すると「1995年発売の『ミッキーのアルバイトは危機一髪 』の複製である」とディズニー社に解釈されるケース)


また、ディズニーリゾートで活躍している着ぐるみのミッキーやミニーも、写真撮りしたものや模写したものを掲載する場合は注意が必要です。
確かに、元のキャラクターは著作権保護期間が切れているかもしれませんが、着ぐるみ自体は1992年に登場したものであり、ディズニー社のデザイナーの創作物(二次著作物)とみなされる可能性があります。
(団体名義の公表の場合、2042年以降でないと使えない)




その他、著作権講座6時間目〜著作権切れの著作物とはに詳しく書きましたので参考にしてください。




Special thanks Mr.硫黄、 Mr.鼠死亡、著作権のひろば



【資料】しゅんしゅんがピックアップした著作物の著作権保護期間切れ(日本国内のみの場合)
著作権切れタイトル発表年又は著作者没年コメント
2037年
くまのプーさん1976年E.H.シェパード氏没クラシック・プー
2042年
サザエさん1992年長谷川町子氏没1946年初出
2046年
ドラえもん1996年藤子・F・不二雄氏没1972年初出
2024年
キティちゃん1974年発表サンリオ名義で発表
2050年
みっき〜・みに〜
(当サイトキャラクター)
2000年発表2000年しゅんしゅんのホームページ開設
(変名による公表)
(「ファンタジア」は外しました。ファンタジアは「蒸気船ウイリー」のミッキーの翻案なのか、「蒸気船ウイリーのミッキー」の翻案なのか、上記の結論が出ないと・・・・)

「クラシックプー」・・童話のストーリーを書いたのはA.A.ミルン氏(1956年没)ですが、イラストはE.H.シェパード氏が描いているので、著作権保護期間はこちらに影響されます。



(※1)著作者人格権に配慮
そうそう、いくらパブリックドメインといっても、著作者人格権のうち、名誉声望権は残されますので、ミッキーマウスの品位を落としたりすることは(ディズニー社の意に反すると思われるので)できません。
また、商標権は更新できますので、営利目的では一切使用できません。



(※2)戦時加算
平和条約において、条約関係にある連合国の国民が第2次世界大戦前又は大戦中に取得した著作権については、通常の保護期間に戦争期間を加算します。1941年12月8日から、対日平和条約発効の前日までの日数(主な国は3794日)を加算しなければなりません。


(※3)旧法と新法を比較(2027年説)
新法施行時(1971年)に著作権が残っている著作物は新法と旧法を比較して期間の長い方を適用するという考え方。 (※3)日本国内の使用
私のサイトのように、日本語で作成し、データを日本のサーバーに置き、日本の読者を対象にしているのであれば日本国内向けのサイトと見なされ、日本の法律のみ適用されます。
英語で作ったり、外国人向けのコンテンツだと、外国向けのサイトと見なされることも。


(※4)ファンタジアの著作権切れ
1999年に「ファンタジア2」が公開されているので、注意して使用しないと「2」の著作権侵害と言われることもあります。また、ファンタジアの著作権切れについても「ファンタジアのミッキーマウスはW.ディズニーの著作物」という主張がされるかも知れなく、予断を許しません。






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